靴屋であって靴屋ではない「WFG」のこだわり
Footwear Gallery(以下、WFG)の創業は1979年。ヨットが趣味だったオーナーが研修で渡米した際、当時まだ日本になかった「デッキシューズ」に出会い、輸入したことがはじまりなのだとか。
「当時、日本のヨットスタイルといえば、ゴムつなぎに長靴だったのに対し、アメリカではチノパンにデッキシューズと洗練されたスタイルでヨットを楽しんでいたそうです。それをきっかけに欧米、特にヨーロッパの靴文化に感銘を受けました。靴を輸入するだけではなく、ブランドや工房が発するアイデンティティを掘り起こしてきたのです。私たちは単なる靴屋ではなく、その靴が生まれた国の歴史や文化と革製品の魅力を伝えることを創業以来大切にしています。WFGの取り扱うすべての靴には物語が存在しているんですよ」
そうお話くださったのは、WFG取締役の日高竜介さん。靴先進国といわれるフランス、イタリアなどの国々はその歴史の長さはもちろん、文化と革製品には密接な関係にあると言葉を続けます。
「例えば料理を作ったり、掃除をしたりするときにも彼らは靴を履いていますよね。いわば、ベッドに入る直前まで共にあるわけです。それほど長い時間を過ごす靴へのこだわりが強いのは当たり前のことなのかもしれません。物語にはそんな日常も含められているんです」。
「靴」は意思の伝達に欠かせないもの
当たり前にように靴を履き、外出している私たちですが、もし靴がなかったら?夏の焼け付くようなアスファルト、冬の凍てつくアスファストを裸足で歩くことはできませんよね。そんな生きる上で欠かせない靴を、WFGはさらに深く追求しています。
「靴を変えると人生が変わるというのは決して大げさなことではありません。共に人生を歩む靴があれば、どこにだって行くことができます。「生きるとは意思を持って移動すること」。それが私たちが考える「靴」の存在価値です。だからこそ、靴選びはもっと慎重になるべきですし、こだわりを持っていただきたいですね」
良い靴の選び方
履いているうちに足に痛みを感じたり、違和感を感じたりするようでは共に歩むにはちょっと不安。また、いくら気に入っていても流行遅れではとちょっと恥ずかしい……。WFGが提案する「良い靴」とはどんなものなのでしょう。
「ジャケットやネクタイなど、身につけるものは下着も含めたくさんありますが、中でも靴は体に一番密着しています。そして唯一、痛みを感じるアイテムでもあります。良い靴というのはまず、そのようなストレスがないこと。靴は、制作過程で人の手が入れば入るほど足にフィットし、痛みのリスクが減るという特徴があります。機械任せではなく、熟練の職人たちの手によって作り出される靴には、感覚や感触など、数字では表せないものが宿っているのではないでしょうか」
機械による大量生産では微調整が難しいのに対し、靴職人たち熟練の技による丁寧な靴作りは、パーツひとつひとつを丁寧に仕上げて行きます。素材となる皮も、柔らかすぎず、硬すぎない、生まれて2歳前後の仔牛の革を使用するなど、ヨーロッパの職人たちは、すべてにおいて妥協がありません。
「気に入った靴は何度も修理をして長く履き続けたいもの。つまり、良い靴というのは、愛着が持てる靴だと思います。靴が人生の相棒だとしたら、できるだけ長く共に歩みたいですよね。靴をはじめ、良い革製品というには経年変化を味わえる「嗜好品」ともいえます。共に歳を重ね、時にメンテナンスを繰り返しながら靴を楽しんでいただきたいですね。
また、デザインにおいては、流行に左右されない普遍的なデザインをおすすめします。長く愛され続けてきたのには理由があり、先人たちが守り続けてきた靴の歴史でもあります。そうした背景も味わっていただけたら嬉しいですね」。
世界中の靴マニアが絶賛するジャパン クオリティー
創業以来、イタリア・フランス・イギリスなどヨーロッパの著名なブランドの日本デビューに貢献してきたWFG。2006年からは国産の靴の販売にも力を入れています。
「日本の靴産業は危機的状態にあります。靴職人の後継者問題や新興国での機械による大量生産などがその理由です。靴に携わる者の使命として、現状を変えたいというのが取り扱いをはじめた一番の理由です。
面白いのは、そうした状況にありながら、世界中の靴マニアたちは日本にわざわざ靴を作りにきていること。それは、ひとえに日本の職人たちの丁寧な仕事が高く評価されているからです。ヨーロッパに比べると日本の靴の歴史は浅いのですが、ものづくりに対する真摯な姿勢は、今や靴先進国のヨーロッパに勝るといっても過言ではありません」
靴先進国であるイタリアでは、気に入った靴は何度も修理して長く履きたいという気持ちと、何十年もメンテナンスして履いている靴に対する自負や愛着心が根付いています。その思いを継承すべく、WFGでは同店で購入した靴はもちろんのこと、他店で購入したものもリペアを行なっています。
「修理は人様の愛着や思い入れのあるものに私たちが手を加えることによって可能な限り蘇らせることができ、そしてそれを喜んでいただける醍醐味があります。時を超えて存在するものの価値を共感いただけたらこんな嬉しいことはありません」
最後に、イタリアのことわざをひとつ、ご紹介しましょう。
“その人が履いている靴は、その人の人格そのものを表すものである“
共に歩む最高の一足がきっと見つかるWorld Footwear Galleryもまた、長い人生のよき理解者であり、「相棒」なのかもしれません。
DATA
World Footwear Gallery GINZA SIX
東京都銀座6-10-1-5F
電話 03-6263-9991
営業時間:10:30~20:30
定休日:無休