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靴をつくり続けて60余年の中山製靴は失われた製靴技術を知る靴職人がいる!

中山製靴は靴づくりにおいて、80年代は靴の製造が機械化、量産化が進んだ時代であり、その潮流には乗らず、一足、一足、職人の手によって靴をつくり続けてきた。一方で、長年の技術やノウハウを大事にしながらも、いいものを作るために、現状維持ではない、さらに先を考えた靴づくりを続けています。

中山製靴は靴づくりにおいて、80年代は靴の製造が機械化、量産化が進んだ時代であり、その潮流には乗らず、一足、一足、職人の手によって靴をつくり続けてきた。一方で、長年の技術やノウハウを大事にしながらも、いいものを作るために、現状維持ではない、さらに先を考えた靴づくりを続けています。

目次

18歳で靴づくりをスタートして以来、靴をつくり続ける。

東京都足立区・北綾瀬の閑静な住宅街に佇む「中山製靴」。軒先きに掲げられた控えめな看板には「山靴製造・販売・修理」と書かれ、戸を開けると、工房では息子の貞さんが、登山靴を作る姿がありました。ご主人である淳一さんは、83歳になった現在も、貞さんと奥様と3人で登山靴を作り続けています。

「上京して、居候先の叔父の家が靴屋さんでした。叔父さんに『体があいていて暇を持て余してるなら靴を作ってみろ』と言われ、作ってみたら、どういうわけか靴が作れてしまいました。みんな、どうしてだろう?と不思議がっていましたよ」と、初めて靴を作ったときのことを振り返る淳一さん。

そのことがきっかけとなり、靴職人の道に足を踏み入れ、叔父さんの営む靴店で靴づくりの仕事をはじめました。そして6年ほどつとめ、1年間は東京・浅草の靴店でゴルフシューズをつくり、25歳のときに独立し「中山製靴」を創業したそうです。

「あの頃は、今のように登山靴は1年中売れるというものではありませんでした。夏になると売れる。山岳部の学生さんなんかが買いにきましてね。その時期にあわせて、2ヶ月間くらい集中して登山靴をつくっていました」と淳一さん。

メインは紳士靴をつくり、冬に合わせてスキーブーツをつくり、夏は登山靴をつくるというローテーションで1年間靴づくりはまわっていたのだそうです。終戦から30年くらいは、スポーツ用品店などない時代なので、ほとんどのメーカーで中山製靴と同様に、基本は紳士靴づくりをし、シーズンに合わせていろいろやっていました。

写真のブーツは淳一さんがつくったスキーブーツ。プラスチック製のブーツになる前は、このように底からアッパーまですべて革でつくられていたのだそうです。靴づくりを知っている方であれば、このブーツがいかに高度な技術をもってして作られ、丹念な仕事によって作り上げられたのかがお判りになるでしょう。

革を木型に沿わせて形にする「つり込み」。靴底を縫い付ける「底付け」。一足つくるのに3ヶ月以上かかる、膨大な手仕事の積み重ね。同じ作業をひたすら繰り返す職人の仕事が1足、1足に凝縮されているのです。

その後、プラスティック製へと完全に移行してからは「中山製靴」では、登山靴の製造と、修理がメインになっていったのだそうです。

足が中でずれない。中山製靴の登山靴のこだわり。

「歩行中に足が中でまったくずれないようにするための設計をしています」と、淳一さん。木型は淳一さんが長い年月の間、試行錯誤を繰り返し作り上げたものを使用しています。型は登山靴とチロリアンとハイキング用の3型。そこに、ワイズの異なる3型(スタンダー、太め、細め)を用意しています。

「すべてがよそのものとはちがうのですが、わかりやすい部分でいうと、うちの木型は、土踏まずの部分に空間を持たせています。これによって足が前にずれないように工夫をしています」。足が前にずれないということは、おもに下山時に、足が前にずれてしまうことで足の指を痛めることを防いでくれます。

また、かかとに対して足首がやや外側を向くように設計されているのも大きな特徴です。この足首の角度は日本人の骨格に合うようにつくられていて、山道で、たとえばよバランスをくずし、よろけたときなどに、瞬間的に内側に力が入るようにしてあるのだそうです。内側に力が効くようにつくることで、足の裏にダイレクトに力がかかるようになっています。

中山製靴の登山靴は、足首の曲がる部分にマチを入れ、たるみができるようにしています。これは、足首と甲が別々に絞まるようにするための工夫です。「よその登山靴はこのようなマチは作っていないと思いますよ。うちは、足にフィットすることを追求した結果、ここにマチを入れて、足首と甲が別々に絞まるように設計をしています」

「うちの登山靴はベロが硬いです。アッパーがやわらかいとバランスを崩しやすいんです。だけど、ベロを硬くしてしっかり固定してあげることで安定します。よろけたとき、足の裏にダイレクトに力がかかるようにしています」

固めのベロの、足に当たる部分のクッションはとても厚いクッション材が使われています。これも靴と足のフィット感をつくりだし、かつ、クッション性が高く足首の負担を軽減しています。履き口も足首を包み込むような形状につくらているため、かかとから足首にかけての抜群のフィット感を生み出しています。

土踏まず部分の2重のステッチも要注目です。前述の通り、中山製靴の木型は土踏まずに空間を持たせ、足が前にずれないようにしています。上と下のステッチの間にすきまがあるのがその証です。

中山製靴では「1000DX」と「G型」の登山靴には、この木の釘(ペース)を底に打ちこみ、底とアッパーがしっかりと固定されないようにしています。

「ペース打ちをしているところはもうないんじゃないかな。底をしっかりと固定してずれないようにすることで、縫い糸が切れないようにするんです。底とアッパーが動いてしまうと糸が切れてしまうので、なるべく動かないよにするんです」と淳一さん。

底にドスドスと穴をあけ、ペースを打ち込んでいく貞さん。「最近はもう接着剤の接着力がよくなっているし、登山道の足場も整備されていてよくなっているので、ピタっとくっついて動かない。今はそこまで必要がないかもしれません。作っている方からすると、これをやっておけばずれる可能性が少なくなるという安心感があるんですよ」

数々の修理から学び、進化し続ける中山製靴の靴。

中山製靴では登山靴の卸売と、修理を長年やってきました。現在の製品ラインナップは登山靴では「G型」「1100」「1000DX」「1000」「700」そしてタウンシューズの「プレーン」「チロリアン」が基本の7種。これにハイカット、ローカット、ソフトタイプやハードタイプ、カラーなど、お客さまのリクエストによってさまざまにつくっています。

これだけ登山靴を熟知しているので、淳一さんもかつては山登りをされていたのかと思いきや、登山はまったくしないのだそう。「やらないからいいんだよ。やるとダメ。これでいいってことになっちゃうだろ」と淳一さん。

「もう40年、登山靴の修理をやっています。修理をやっているといちばんよくわかる。修理に来る靴はみんなシワだらけ。“あまり”があるからシワがでる。足にちゃんと合っていれば型崩れ、シワがよることがないんです。どうしたらこうならないかというのを考えて、1つ1つ改良を加えて、うちの靴はつくっていったんです」

先生は修理靴だと淳一さんは言います。この靴はここがダメだから、こういうふうに悪くなる。この靴はここがダメだから、こうなるっていうのがわかるようになる。デザインもそうで、バランスがよくないとダメ。そういういったことを1足、1足からすべて勉強し、中山製靴の靴をつくりあげてきたのだそう。

「完成するまで何十年とかかっている。直し、直し、改良してやってきた。ずっとね。いまだに気に入らないところがあれば直している。年中直している。完成までは程遠いかな」

淳一さんは創業60年を記念しニューモデルをリリースしました。ステッチダウン製法のクラシカルなデザインのミッドカッドモデルで、日常使いから旅行などに最適な1足。山道にも対応しているため、ハイキングなどでも使えるのだそうです。

淳一さんがつくりだし、貞さんが受け継ぎ、いまなお進化を続ける中山製靴の靴。
実際に足を入れてみると、淳一さんが追求し続けているフィット感を実感することができるでしょう。足の裏がぴったり、吸い付くようにソールにくっつき、甲も足首も、その上の、足と靴がフィットし、ひじょうに軽く感じます。

靴をつくる工程は100以上あります。靴をつくるというのは、ただ単に品物をかたちにしていくということだけではありません。おそらく表面から見えているものの倍、3倍、4倍の部品が靴のなかには組み込まれ、職人の創意工夫が凝縮されているのです。

データ

中山製靴
住所:東京都足立区谷中3-4-15
電話:03-5616-8775
営業:8時30分~17時30分

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