18歳で靴づくりをスタートして以来、靴をつくり続ける。

東京都足立区・北綾瀬の閑静な住宅街に佇む「中山製靴」。軒先きに掲げられた控えめな看板には「山靴製造・販売・修理」と書かれ、戸を開けると、工房では息子の貞さんが、登山靴を作る姿がありました。ご主人である淳一さんは、83歳になった現在も、貞さんと奥様と3人で登山靴を作り続けています。

「上京して、居候先の叔父の家が靴屋さんでした。叔父さんに『体があいていて暇を持て余してるなら靴を作ってみろ』と言われ、作ってみたら、どういうわけか靴が作れてしまいました。みんな、どうしてだろう?と不思議がっていましたよ」と、初めて靴を作ったときのことを振り返る淳一さん。

そのことがきっかけとなり、靴職人の道に足を踏み入れ、叔父さんの営む靴店で靴づくりの仕事をはじめました。そして6年ほどつとめ、1年間は東京・浅草の靴店でゴルフシューズをつくり、25歳のときに独立し「中山製靴」を創業したそうです。

「あの頃は、今のように登山靴は1年中売れるというものではありませんでした。夏になると売れる。山岳部の学生さんなんかが買いにきましてね。その時期にあわせて、2ヶ月間くらい集中して登山靴をつくっていました」と淳一さん。

メインは紳士靴をつくり、冬に合わせてスキーブーツをつくり、夏は登山靴をつくるというローテーションで1年間靴づくりはまわっていたのだそうです。終戦から30年くらいは、スポーツ用品店などない時代なので、ほとんどのメーカーで中山製靴と同様に、基本は紳士靴づくりをし、シーズンに合わせていろいろやっていました。

写真のブーツは淳一さんがつくったスキーブーツ。プラスチック製のブーツになる前は、このように底からアッパーまですべて革でつくられていたのだそうです。靴づくりを知っている方であれば、このブーツがいかに高度な技術をもってして作られ、丹念な仕事によって作り上げられたのかがお判りになるでしょう。

革を木型に沿わせて形にする「つり込み」。靴底を縫い付ける「底付け」。一足つくるのに3ヶ月以上かかる、膨大な手仕事の積み重ね。同じ作業をひたすら繰り返す職人の仕事が1足、1足に凝縮されているのです。

その後、プラスティック製へと完全に移行してからは「中山製靴」では、登山靴の製造と、修理がメインになっていったのだそうです。

足が中でずれない。中山製靴の登山靴のこだわり。

「歩行中に足が中でまったくずれないようにするための設計をしています」と、淳一さん。木型は淳一さんが長い年月の間、試行錯誤を繰り返し作り上げたものを使用しています。型は登山靴とチロリアンとハイキング用の3型。そこに、ワイズの異なる3型(スタンダー、太め、細め)を用意しています。

「すべてがよそのものとはちがうのですが、わかりやすい部分でいうと、うちの木型は、土踏まずの部分に空間を持たせています。これによって足が前にずれないように工夫をしています」。足が前にずれないということは、おもに下山時に、足が前にずれてしまうことで足の指を痛めることを防いでくれます。

また、かかとに対して足首がやや外側を向くように設計されているのも大きな特徴です。この足首の角度は日本人の骨格に合うようにつくられていて、山道で、たとえばよバランスをくずし、よろけたときなどに、瞬間的に内側に力が入るようにしてあるのだそうです。内側に力が効くようにつくることで、足の裏にダイレクトに力がかかるようになっています。

中山製靴の登山靴は、足首の曲がる部分にマチを入れ、たるみができるようにしています。これは、足首と甲が別々に絞まるようにするための工夫です。「よその登山靴はこのようなマチは作っていないと思いますよ。うちは、足にフィットすることを追求した結果、ここにマチを入れて、足首と甲が別々に絞まるように設計をしています」

「うちの登山靴はベロが硬いです。アッパーがやわらかいとバランスを崩しやすいんです。だけど、ベロを硬くしてしっかり固定してあげることで安定します。よろけたとき、足の裏にダイレクトに力がかかるようにしています」

固めのベロの、足に当たる部分のクッションはとても厚いクッション材が使われています。これも靴と足のフィット感をつくりだし、かつ、クッション性が高く足首の負担を軽減しています。履き口も足首を包み込むような形状につくらているため、かかとから足首にかけての抜群のフィット感を生み出しています。

土踏まず部分の2重のステッチも要注目です。前述の通り、中山製靴の木型は土踏まずに空間を持たせ、足が前にずれないようにしています。上と下のステッチの間にすきまがあるのがその証です。

中山製靴では「1000DX」と「G型」の登山靴には、この木の釘(ペース)を底に打ちこみ、底とアッパーがしっかりと固定されないようにしています。

「ペース打ちをしているところはもうないんじゃないかな。底をしっかりと固定してずれないようにすることで、縫い糸が切れないようにするんです。底とアッパーが動いてしまうと糸が切れてしまうので、なるべく動かないよにするんです」と淳一さん。

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