靴を知っているからこそ修理ができる

宮戸さんの手にかかると、靴がどんどん生まれ変わっていきます。「靴は手入れがいいと、ちゃんと恩返ししてくれる」と宮戸さんは言います。手入れをするということは、その物を大事にし、愛着を持って向き合っている証しなのだと。

「靴は裏こそが大事なんですよ。布を指に巻いてクリームをつけて、ピッカピカに磨いてあげるんです。昔は、電車などで座って足を組んだときに、このピッカピカの裏が見えるとかっこいいっていうのがあってね。唾をピッピッってつけながら磨いであげるとものすごくツヤが出ますよ」。ソールがみるみるうちにピカピカに磨き上げられていきます。

こちらは丁稚の頃から使っているというロウ。指先で“適量”をとり、靴に擦り込み磨いていきます。「靴に傷がついちゃっているときは、その部分を色で染めてあげて、最後にロウで磨いてあげて照りとツヤを出してあげるんです。お客さんもびっくりしますよ。“傷があったのに消えてる”って。傷がついていることにぜんぜん気がつかないお客さんもいらっしゃいますけど、私は修繕の依頼がカカトの修理だけであっても、もし靴に傷をみつけたらこうして直して差し上げます」

「この靴は、つま先をすっちゃったんだね。“こすれて白くなっちゃって履けないからどうにかできないか”って僕のところに来たんすが、こういうのは、あっという間に直っちゃいますよ」と、宮戸さんが奥から小瓶を持ってきました。

「これは“早染めインキ”というものです」。一般的に、こすれた部分は、塗料をつけて上から吹き付けるという方法で修繕をするのだそうです。

「この早染めインキは、革のなかに塗料が入りこんでいくので、黒く染めたところがこすっても白くならないんですよ。でも、これは、シンナーが入っていて揮発性が高いので染めたままにしておくとよくない。すぐに栄養クリームをつけてあげるんです」。

こういったことも、知っているからこそ対応ができることで、知らなければ、靴を傷めてしまいかねないのです。

次から次へと手際よく、靴を修理していく宮戸さん。工房には、あふれんばかりのたくさんの靴が、所狭しと宮戸さんに修理をしてもらうのを待っています。今度は、ソールのすり減りの修繕依頼のあった靴の修理をはじめました。

かかとのトップリフトを外し、ヒールを外していきます。「うちではぜんぶ一度、糸を抜いてしまいます。そして補修パーツをつけたあと、さらにその部分に新たに出し縫いをかけていきます。そうすると何度でも修繕して、ずっと履き続けることができるんです」。

次は、ソールの縫われている糸を切り、ソールを外していきます。このとき、宮戸さんが手にしているのは包丁。握りしめた包丁に力を込め、ザクザクザクザクザと、一息でステッチを切っていきます。

宮戸さんは基本的な作業はこの包丁で行うのだそう。「昔はみんなこうして包丁で作業をしていましたが、今は包丁を使って作業する人はほとんどいないと思いますよ。ハサミでパチパチとやるんじゃないですかね。それだと時間がかかる。包丁だと一気に切ることができるので作業が圧倒的に早いんです」。

以前に、宮戸さんに師事して店を訪れた靴のスピード修理店の人が、この包丁を手にしたとき、手が震えてしまい、作業をすることができなかったことがあったのだそうです。宮戸さんの包丁捌きを見ていると、迷いがまったくない。まるで包丁を入れる線が見えているかのように、一気に切っていく。これも靴の構造を熟知しているからこそできる熟練の技なのでしょう。

また、工房には年代物のミシンや、長年使いこまれた道具が並んでいます。このミシンは昭和40年製で、知人から譲り受けたもの。靴やカバンを縫うのに使うのだそう。「みんな現役ですよ」と宮戸さん。

宮戸さんは、お客さんとの会話のなかで「まだまだ履けますよ」「長く履いてあげてください」という言葉をよく口にしています。手入れをしながら長く使うということ。工房に並ぶ、現役の道具たちからも、宮戸さんの“長く大事に使う”という気持ちが表れているように感じました。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

関連する記事

まるで新品!どんなソールだってOK!オールソールの修理でこんなに違う!

靴の底のソールは、お手入れだけではどうしても直せなくなってしまうことがありますよね。そんな時はしっかりと修理…

mayuripon / 2966 view

あなたの靴のかかとすり減ってませんか?デキるビジネスマンはかかとにも要注意!

ビジネスマンは毎日歩き回るので、かかとがすり減ってすぐ靴がだめになってしまします。そんな方におすすめなのがか…

nyaon / 1223 view

破れた、めくれたヒールもリペアで元どおり!ヒールは修理して長く履こう!

階段などでぶつけてヒールの革が破れたり、めくれたりした経験ありませんか?そんな傷もリペアで綺麗に直せます!

mayulu / 6340 view

可能な限り靴を蘇らせる、リペア職人という仕事 W.F.G REPAIR FACTOR…

ヨーロッパでは、靴を何度も修理して長く履き続ける文化が根付いています。そんな西洋の靴文化をいち早く日本に取り…

シューズボックス編集部 / 2035 view

いつまでも美しい後姿を目指すなら〈レディース靴〉オールソールの修理・リペアがお勧めで…

レディース靴、〈オールソール〉の修理・リペアの基礎情報をご紹介します。

polskamii / 2520 view

シューズのゴム交換って意外と簡単?その方法とは?

シューズの中でも、多くのゴムが使用されています。特に、スリッポンタイプのシューズでは使用されているのですが、…

pointow / 2481 view

メンズ必見!トップリフトのリペア/修理でクールな後姿を決めましょう!

メンズ必見!後姿を決めるなら、トップリフトの修理/リペアが必須です。 トップリフトの基礎知識をご紹介します。…

polskamii / 4353 view

合わない靴も諦めない!ストレッチのサイズ修正をして自分の足にピッタリにしよう

海外の靴を買ったら、幅が狭くて履くと痛いということはありませんか?日本人は幅広の足が多いので海外の靴が合わな…

nyaon / 1805 view

壊れてしまうとサンダルが履けない!サンダルストラップホックの交換

レディースサンダルに良くついているサンダルストラップホック。頻繁につけたり、外したりを繰り返す場所なので、靴…

mashroomcat / 8759 view

古くなると臭いの原因にも!インソールをカラーチェンジして靴の印象も変えちゃおう♡

傷みやすいインソール。履いてくうちに黒ずんだり、破れたり、臭くなったりとインソールの傷みを避けることはできま…

mayulu / 1510 view

まだまだ長く愛用したい!思い入れのある靴の摩耗した靴底もオールソール修理で甦る!

ブランド物に限らず、大切にしている靴が誰にでもあるでしょう。多少くたびれてしまっても、壊れても捨てられない靴…

森山まなみ / 2812 view

素人でも簡単に修理できる?ホームセンターで購入する靴の補修グッズ

靴は消耗品となるため、使用する度にどうしてもかかとがすり減ってしまい、使い物にならなくなってしまいますよね?…

hamunida / 10472 view

かかとをリペアするだけなのに気分も歩き心地も爽快!かかとが削れて来たらトップリフトを…

男性にとっては靴修理でおなじみとなっているトップリフト交換。営業の外回りなんかは消耗が早く、頻繁に利用してい…

mashroomcat / 4606 view

意外に多いかかとの内側の破損!すべり口や履き口の難しい修理はプロに任せて再生!

ビジネスシューズなど長時間、長期間に渡って履き続ける靴は、どうしても靴履き口の破損が起きてしまいます。一見、…

森山まなみ / 6531 view

靴のヒール部分が傷ついて革が破れてしまった。綺麗に直したい!ヒール巻き・交換の修理と…

気が付かない内にヒール部分がボロボロに!?ヒール部分って直せるの?今回はヒール巻き・交換修理のご紹介です。

cororoizm / 3772 view

関連するキーワード